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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)11号 判決 1994年7月27日

東京都千代田区岩本町3丁目5番5号

原告

エーワン株式会社

代表者代表取締役

新井義明

訴訟代理人弁理士

宇野晴海

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

石田惟久

井上元廣

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成1年審判第6061号事件について、平成4年11月25日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年10月17日、名称を「ワードプロセツサ用ラベルのテストプリシト用紙」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願をした(実願昭58-159401号)が、平成元年2月1日に拒絶査定を受けたので、同年4月6日、これに対し不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成1年審判第6061号事件として審理したうえ、平成4年11月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成5年1月20日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

長方形の枠を構成する各辺に位置合せ用目盛を付し、かつ、前記枠内に正規のプリント用紙と同一の配置とした複数の印刷用スペースを設けてなるワードプロセツサ用ラベルのテストプリント用紙。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、実願昭57-17017号(実開昭58-120074号公報)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)及び実願昭47-108465号(実開昭49-65322号公報)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)を引用し、本願考案は引用例1及び2に記載されたもの(以下「引用例考案1」、「引用例考案2」という。)から当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願考案の要旨、引用例1及び2に審決認定の記載があることは認める。

しかし、審決は、引用例1の記載内容を正しく理解しなかった結果、引用例考案1と本願考案との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、本質的に目的の異なる引用例考案1及び2を組み合わせても、本願考案の構成、作用効果を得ることは困難であるのに、きわめて容易に考案できるとの誤った判断をし(取消事由2)、その結果誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、引用例考案1を「長方形の枠を構成する各辺に位置合せ用目盛を付し、かつ、前記枠内に複数の印刷用スペースを設けてなるワードプロセッサ用ラベルのプリント用紙」と認定し、本願考案とは、「長方形の枠を構成する各辺に位置合せ用目盛を付し、かつ、前記枠内に複数の印刷用スペースを設けてなる」という点において一致すると認定しているが、引用例考案1には、「長方形の枠を構成する各辺」及び「長方形の枠内に複数の印刷用スペースを設けてなる」という構成は存在しない。

すなわち、審決が引用例1に示されているという長方形の枠とは、「ラベル部10、20、・・・、100を包囲する縁辺部5」のことであるが、これは長方形の枠ではない。

引用例考案1のラベル印字用紙は、台紙の上に別の素材からなるラベルを貼着したものであるから、縁辺部というのは貼着部分の余白であり、位置合せ用目盛はこの余白に付されているのである。実際のラベル印字用紙においては、縁辺とラベルとラベルとの境目は、線を描いて表現されているわけではない。審決は、たまたま引用例1の図面において、ラベルが貼着されている台紙を示すために、台紙とラベルの境目が線で表現されていることをもって、長方形の枠と誤解しているにすぎない。

印刷用スペースについても、同様に、引用例1の図面では、台紙に貼着されたラベルを示すために、ラベルの境目が線で表現されているが、実際のラベル印字用紙においては、長方形の枠内に複数の印刷用スペースが線で描かれているわけではない。

したがって、引用例考案1のラベル印字用紙には、審決が述べているような長方形の枠や印刷用スペースというものは存在しない。

一方、本願考案は、引用例考案1の正規のラベル印字用紙とは異なり、正規のラベル印字用紙に印字する際のテストプリント用紙に係るものであるから、「長方形の枠を構成する各辺」及び「長方形の枠内に正規のプリント用紙と同一の配置とした複数の印刷用スペースを設けてなる」という構成は必須要件であり、長方形の枠及び同枠内の複数の印刷用スペースが印刷によりはっきりと区別されて設けられているのである。

このように、引用例考案1の構成は本願考案のものと異なるため、引用例考案1のラベル印字用紙に実際に印字するために縁辺部の数字や目盛を利用しても、縁辺部とラベル、ラベルとラベルの境目がはっきりせず、境目のない真白の一枚のラベルに印字するようなものであるから、相当に神経を使わなければならず、印字の位置合せが正確に行えず、上下左右にはみだしてしまうことにもなり、印字の誤りはそのまま高価な正規のラベル用紙の無駄遣いにつながるのである。

審決の上記一致点の認定は誤りである。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)

引用例考案1は、「スペーシングチャートなどのような別種の出力設定用紙を必要とせず」(甲第3号証4頁12~13行)とあるように、もともとテストプリント用紙を必要としないという前提があるのに対し、引用例考案2は、「印刷しようとするものと同型同質の台紙の表面に、任意な間隔の方眼線を、任意な色で印刷し」た名刺、葉書及びカード類の、試し刷り用台紙に関するものであり(甲第4号証、明細書1~2頁)、本来引用例考案1と引用例考案2とは逆の発想に基づくものである。

また、本願考案と引用例考案2を比較すると、本願考案のテストプリント用紙は、高価なラベル紙の無駄遣いを防止するということが狙いであるから、正規のワードプロセッサ用ラベルと同質のものを使用することはありえない。これに対し、引用例考案2の試し刷り用台紙は、予め活字の位置や構図が正しくセットされているかどうかを実際に印刷にかけて試すためのものであり、「印刷しようとするものと同型同質の台紙の表面に」とあるように、印刷される印刷用紙と同型で、かつ同質のものであることによって、はじめて成り立つものである。それ故、本願考案と引用例考案2は、本質的にその目的を異にしている。

したがって、引用例考案1と引用例考案2を結びつける発想自体に大きな矛盾があり、この各引用例考案を組み合わせても本願考案の構成要件に到らず、また、本願考案は、印字位置の修正の容易さ、高価なラベルの無駄遣いを防止するという両引用例考案にはない作用効果を有するものであるから、本願考案は、引用例考案1及び2から当業者がきわめて容易に考案できたものということはできない。

これをきわめて容易に考案できたものとした審決の判断は誤りである。

第4  被告主張の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

まず、「長方形の枠を構成する各辺」とは、複数の印刷用スペースの外側の位置合せ用目盛を付した部分を指すことは明らかであるところ、引用例考案1も、印刷用スペースであるラベル部10、20、・・・、100の外側の、行目盛、列目盛を付した部分が縁辺部であるから、引用例考案1の縁辺部が、本願考案の「長方形の枠を構成する各辺」に相当する。

原告は、本願考案においては「長方形の枠」は印刷によってはっきりと設けられていると主張するが、本願考案の要旨を規定すべき実用新案登録請求の範囲には、「印刷によって」との限定は記載されていない。

次に、本願考案の要旨を構成する複数の印刷用スペースについてであるが、「スペース」とは、空間、余白等を意味するもので、本願考案のものも長方形の枠内に複数の印刷用余白を設けるという以上のものではないから、印刷用スペースが印刷によりはっきりと設けられているという原告の主張もまた本願考案の要旨に基づかないものである。そして、引用例考案1も、縁辺部に包囲された部分に複数の印刷用余白が設けられていることは明らかであるから、審決の一致点の認定に誤りはない。

2  同2について

引用例考案2は、官製ハガキのような高価な印刷紙を何枚も無駄にすることなく、的確に印刷できるようにするための安価な同型の試し刷り用紙であって、この点で本願考案のテストプリント用紙と軌を一にするものである。

原告は、引用例2の「同質の」という語句を捉えて、本願考案との差異を主張するが、テストプリント用紙の質自体は、本願考案の要旨とはされていないから、原告の主張は失当である。

また、引用例考案1と引用例考案2とを結びつける点については、引用例考案1は、ラベル印字用紙に直接印刷する点で、本願考案と異なり、高価な印刷用紙を無駄にする可能性があるが、この点は、前記のとおり、引用例考案2において、高価な印刷紙を無駄にすることなく、的確に印刷できるようにするための同型の安価な試し刷り用台紙を用いることが記載されているのであるから、それらを結びつけて本願考案にすることに何ら不合理はない。

そして、本願考案の効果の点についても、印字位置の修正の容易さは、引用例考案1及び2が共に有する効果であり、高価な印刷紙の無駄遣いを防止するという点は、引用例2に開示されており、結局いずれも格別の効果とはいえない。

したがって、本願考案は、引用例1及び2に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとした審決の判断に誤りはない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、いずれも当事者間に争いはない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1)  甲第3号証によれば、引用例1の考案の詳細な説明の欄には、従来技術につき、従来、ラベル部に印字する文字及び符号の位置を決めるために、スペーシングチャートが用いられているが、その大きさ及びそこに付された行及び列目盛が、実際に印字されるラベル印字用紙の大きさ及び実際のプリンタの印字文字の大きさに一致していないものであることから、印字すべき文字及び符号の位置決めに当たって直観性に欠け、スペーシングチャートと実際のラベル印字用紙との寸法及び縮尺の相違を考慮しつつ位置決めしなければならないという問題点があったことを指摘し(同号証明細書2頁14行~4頁7行)、引用例考案1の目的友び構成につき、実施例及び図面を示し、次のとおり説明していることが認められる。

「本考案の目的は、ラベル印字用紙の印字文字および符号の出力設計、および該出力設計にもとづきプリンタから該ラベル印字用紙への印字文字および符号の出力において、スペーシングチャートなどのような別種の出力設計用紙を必要とせず、実際にプリンタにより出力が行なわれる用紙を出力設計にも用いることができるようにし、容易に正確にラベル印字を行いうるラベル印字用紙を提供することにある。」(同4頁9~17行)

「本考案においては、台紙上に上面紙が粘着材を介して剥離可能に粘着され、該上面紙には相互に切り離し可能なラベル部および該ラベル部を包囲する縁辺部が設けられ、該縁辺部には行または列の位置をあらわす目盛符号が設けられているラベル印字用紙が提供される。」(同4頁19行~5頁4行)

「上面紙1は縁辺部5および文字および符号が印字されるラベル部10、20、…、100を具備しており、該縁辺部5と該ラベル部10、20、…、100とは一点鎖線6で示した切込みにより切離可能なようになっている。ラベル部10、20、…、100は同一寸法の大きさである。」(同5頁16行~6頁1行)

「粘着剤2は台紙3に上面紙1を粘着させているが、この粘着状態としては、保管時、文字印字決め時およびプリンタを用いて印字する時にはラベル部10、20、…、100のそれぞれを固着的に台紙3上に面着させておく・・・」(同6頁2行~6行)

「ラベル部10、20、…、100を包囲する縁辺部5には、行目盛51、列目盛および破線で示した中央仕切線53が印刷されている。」(同6頁14~16行)

以上の記載及び図面によれば、引用例考案1の台紙に粘着されている上面紙には、複数の同一寸法のラベル部とこれを包囲する縁辺部が設けられており、これらのラベル部は、切込みに沿って剥離できるものであって、印刷時には、これらラベル部の各々に印刷されるものであるから、複数の各ラベル部がそれぞれ独立した印刷用の場所を形成していることが認められる。

また、その縁辺部は、長方形のラベル部全体の外縁に沿って、これを包囲する形で設けられ、目盛及び破線が付されている部分を指し、縁辺部とラベル部の境界には切込みが設けられているから、これらによって、縁辺部は長方形のラベル部全体を囲む輪郭部すなわち長方形の枠を形成しているということができる。

(2)  一方、甲第2号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の欄には、従来技術につき、ワードプロセッサは製造メーカーによってプリント位置が異なっているので、正規のプリント用紙に印字する前にテストプリントを必要とするが、一枚のシートに複数の剥離紙を張った郵便宛先用ラベルなどの場合、適当なテストプリント用紙がなく、正規のシートをテストプリント用紙として使用しているのが実情であるところ、これでは、テストプリントに要する経費が大きくなり、特に高価な剥離紙の場合不経済であり、また、テスト用紙として白洋紙等を使用する場合には、目安となる部分がないので位置修正に手数を要し非能率であるとの欠点があることを指摘し(同号証1欄10~24行)、本願考案の目的につき、「この考案は上述に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、位置修正が簡単にでき、しかも安易なテスト用プリント用紙を提供することにある。」(同1欄25行~2欄2行)と記載されている。

この記載と前示本願考案の要旨に基づけば、本願考案は、引用例考案1のように正規の印字がされるラベル印字用紙自体を用いて、これに位置合わせ用の目盛りを設けたものとは異なり、テストプリント用紙を用いて位置合わせをすることを前提に、このテストプリント用紙に位置合わせ用の目盛りを設けたものであることが明らかであり、この引用例考案1と本願考案の差異は、審決が両者の相違点として認定したところにほかならない。

そして、このようにテストプリント用紙を用いて、正規のプリント用紙に印字すべき文字符号等の位置決めをし、必要に応じて位置修正をするためには、正規のプリント用紙上の印字される場所に正確に対応する印刷用スペースをテストプリント用紙上に設けることが適切であり、本願考案において、「正規のプリント用紙と同一の配置とした複数の印刷用スペースを設け」たのは、この趣旨であると認められる。

(3)  以上に述べたところを前提に、引用例考案1と本願考案の構成を対比すると、引用例考案1における複数のラベルは正規の印字用のラベル自体であり、本願考案の「複数の印刷用スペース」はテストプリント用紙上の印刷用スペースである点で異なるものの、ともに印刷用に設けられた場所としての意味において同一であり、その配置も両者において異ならないことは明らかである。

次に、引用例考案1の縁辺部は、前示のとおり、長方形のラベル部全体の外縁に沿って、これを包囲する形で設けられ、目盛及び破線が付されている部分を指し、縁辺部とラベル部の境界には切込みが設けられているから、これらによって、縁辺部は長方形のラベル部全体を囲む輪郭部すなわち長方形の枠を形成しているということができるのであって、この構成は、本願考案の「長方形の枠を構成する各辺に位置合せ用目盛を付し」との構成に一致するものと認められる。

原告は、本願考案における「長方形の枠を構成する各辺」とは、印刷された各辺により長方形の枠が構成されていることをいい、「複数の印刷用スペース」とは印刷用スペースが印刷によりはっきりと設けられていることをいうとして、審決の認定を論難する。

しかし、引用例考案1の上面紙に示されている複数のラベル部及び縁辺部の配置をそのまま表すように別の用紙に再現して、これをテストプリント用紙とすれば、このテストプリント用紙が、本願考案の構成を備えたテストプリント用紙となることは、上述したことに照らし明らかである。原告の上記主張は、帰するところ、引用例考案1のものが正規の印字用の用紙であるのに対し、本願考案のものは、テストプリント用紙であるとの相違点を述べているにすぎないと解されるのであって、この点は、審決が両者の相違点として把握していること前示のとおりであるから、原告主張の理由によって、審決の一致点の認定に誤りがあるとすることはできない。

原告主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り)について

(1)  甲第4号証によれば、引用例2には、引用例考案2につき、従来の名刺、葉書及びカード類のような小枚数の印刷においては、物指し又はその他の器具類で、試し刷りを図りながら、何回も針を打ち直し、試し刷りを繰り返し、その度に台紙を徒費し、手先を汚すなどかなり長い時間と労力を消費している欠点があったところ、この浪費を解決することを目的として(同号証明細書1頁8~20行)、その実用新案登録請求の範囲に記載されている「印刷しようとする紙と同型同質の台紙の表面に任意の間隔の方眼線を任意の色で印刷した名刺、葉書及びカード類の試し刷り用台紙」(同2頁)を提供するものであることが記載されており、テスト用(試し刷り用)の用紙を提供するという点において、前示本願考案の目的と同様の目的を有するものであることが認められる。

また、前認定の引用例1及び本願明細書の従来技術についての記載からしても、本願出願前から、ワードプロセッサ用のスペーシングチャートなどテストプリント用紙すなわち試し刷り用紙が、印字の位置決めや位置修正用に用いられていたことが明らかである。

このような技術水準のもとで、引用例考案1に開示された印字位置決め作業上の不都合を解消する構成を、正規の印字用紙を用いることによる用紙の無駄遣いを避けるために試し刷り用の用紙を用いる引用例考案2に適用して、本願考案の構成に想到することは、当業者にとってきわめて容易になしうることというべきである。

(2)  原告は、引用例1の考案と引用例2の考案は、本質的に目的の異なるものであるから、これらを結びつけることには大きな矛盾がある旨主張するが、上記の技術水準に照らせば、原告の主張が当たらないことは明白である。

また、原告は、引用例2の試し刷り用台紙は、印刷される印刷用紙と同型であり、かつ、同質のものであることによってはじめて成り立つものであるのに対し、本願考案においては、高価なラベル紙の無駄遣いを防止することが狙いであるから、ワードプロセッサ用ラベルと同質のものを使用することはありえず、それ故、引用例2は本願考案の目的とは異なる旨主張する。

しかし、引用例2の「従来のように、数枚の台紙を浪費し、数回もの針直しをしないで済み、尚且つ印刷用紙と同質の台紙なれば、使用活字の高低が判明するので・・・」(甲第4号証明細書2頁4~6行)との記載から明らかなように、引用例2においても、同型と同質は別個の作用効果を奏するものであることを示しているのであるから、引用例考案2の台紙の浪費を解決するという目的からみて、試し刷り用台紙を低廉な用紙にすることは、当業者であれば、きわめて容易に予測がつくことといわなければならない。

本願考案の効果に関しては、印字位置の修正の容易さの点について、引用例1に「容易に正確にラベル印字を行いうるラベル印字用紙が得られる」(甲第3号証明細書12頁9~11行)と、引用例2に「正確に修正位置が求められ」(甲第4号証明細書2頁3行)と各記載されているように、引用例考案1及び2の奏する効果であり、また、印字用紙の無駄遣いを防止するという点も、前記のとおり引用例2に開示されているのであるから、これらをもって、格別の効果であると認めることはできない。

したがって、本願考案は、引用例考案1及び2から当業者がきわめて容易に考案することができたものと認められるとした審決の判断は、正当である。

原告主張の取消事由2も理由がない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

平成1年審 判第6061号

審決

東京都千代田区岩本町3丁目5番5号

請求人 エーワン株式会社

東京都新宿区西新宿7-10-19 西新宿ビル6階

代理人弁理士 宇野晴海

昭和58年実用新案登録願第159401号「ワードプロセッサ用ラベルのテストプリント用紙」拒絶査定に対する審判事件(平成3年3月1日出願公告、実公平3-8460)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

(手続の経緯、本願考案の要旨)

本願は、昭和58年10月17日の出願であって、その考案の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの、

「長方形の枠を構成する各辺に位置合せ用目盛を付し、かつ、前記枠内に正規のプリント用紙と同一の配置とした複数の印刷用スペースを設けてなるワードプロセッサ用ラベルのテストプリント用紙。」にあるものと認める。

(引用例)

これに対して、当審における登録異議申立人、大谷和夫が甲第1号証として提出した、実願昭57-17017号(実開昭58-120074号公報)のマイクロフイルム(以下、引用例1という。)には、「ラベル部10、20、・・・、100を包囲する縁辺部5には、行目盛51、列目盛および破線で示した中央仕切線53が印刷されている」(第6頁第14行から第16行)点、及び「ラベル印字用紙を用いて第2図のように文字および符号の印字位置決めを行なった後、これらの位置データ、を例えばキーボードを用いて、ワードプロセッサに入力する」(第8頁第20行から第9頁第3行)点、が記載されている。

また甲第4号証として提出した、実願昭47-108465号(実開昭49-65322号公報)のマイクロフイルム(以下、引用例2という。)には、「印刷しようとするものと同型同質の台紙の表面に、任意な間隔の方眼線を、任意な色で印刷し、これを試し刷りに使用すれば、第二図のように中心の歪みから、周辺の釣り合いまで一目瞭然とするので、正確に修正位置が求められ(る)」(第1頁第21行から第2頁第3行)点、が記載されている。

(対比)

そこで、本願考案(前者)と上記引用例1(後者)に記載されたものとを比較すると、後者の「ラベル部10、20、・・・、100を包囲する縁辺部5」は、前者の「長方形の枠を構成する各辺」に相当する。したがって、後者が、「長方形の枠を構成する各辺に位置合せ用目盛を付し、かつ、前記枠内に複数の印刷用スペースを設けてなるワードプロセッサ用ラベルのプリント用紙。」と言えるのに対し、前者は、これと同一の位置合せ用目盛、同一の印刷用スペースを設けてなるテストプリント用紙である点で異なる。

(当審の判断)

次に、この相違点について検討すると、引用例2のものには、位置合わせを容易にした試し刷り用台紙が記載され、また、引用例1の「技術分野」、「考案の目的」の中で「従来からワードプロセッサなどの利用者がスペーシングチャートなどを用いて予め位置決めした後、位置データをワードプロセッサなどに入力している」(第2頁第10行から第13行)、「スペーシングチャートなどのような別種の出力設計用紙を必要とせず、実際にプリンタにより出力が行なわれる用紙を出力設計にも用いることができるようにし」(第4頁第12行から第15行)と記載されていることから、ワードプロセッサにてプリントする際、プリント用紙と同一のレイアウト、位置合せ用目盛を有する用紙をテストプリント用紙とすること、すなわち、引用例1、引用例2のものを組み合わせて本願考案のもののようにすることは、当業者にとって格別困難性のあることとは認められない。

そして、本願考案の効果も引用例1、引用例2のものから予測される程度のものにすぎない。

(むすび)

以上のとおりであるから、本願考案は、引用例1、引用例2に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められ、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年11月25日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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